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December 23, 2008

時代の転換と破壊的技術

 年末になって世界経済が著しく悪化してきた。米国の三大自動車会社GM、フォード、クライスラーは経営破綻の危機に瀕している。我が世の春を謳歌していたトヨタは創業以来の赤字に転落した。他の自動車会社は推して知るべしである。
 経済専門家のほとんどが自動車会社の業績悪化を金融危機にあると分析している。金がなくて人々が自動車を買えないということだ。たしかに、それは業績悪化の理由の一端ではある。しかし、ことの本質は金不足ではなく、産業構造や文明形態の転換にあるのではないか。
 自動車産業は大量生産、大量消費の工業文明の典型であった。大量に生産された車は、石油を大量に消費しながら、果てし無く続く道の上を、大量の人々を乗せて走る。車だけではない。全ての物が大量に生産され大量に消費される工業時代を牽引してきたのは自動車産業であった。こうした大量生産、大量消費の思想を大量生産システムの創始者であるフォードの名をとってフォーディズムという。そのフォードが破綻寸前にある。それはフォーディズムの終焉であり、大量生産、大量消費型の工業文明の終焉でもある。
 たとえ今後景気が回復したとしても、もはや大量生産、大量消費型の自動車産業がこれまで以上に発展することはない。温暖化を危惧し、これまでとは異なる生活様式を求める人々にとって現在の車は決して魅力のある乗り物ではない。そうした人々の思いが強まれば、現在の自動車産業はやがて、情報産業を基礎にした少量生産、少量消費型の運搬手段にとって代わらざるを得ないだろう。それを可能にする、いわゆる「破壊的技術」(disruptive technology)をいち早く開発した国が情報時代の産業を主導する国となり、経済覇権を握ることになる。その破壊的技術とは、たとえば電気自動車である。
 化石燃料に依存しない電気エネルギーシステムが普及すれば、自動車の主要産業は石油産業から電気産業へ、主要部品もガソリン・エンジンから電池とモーター、そしてそれらを制御するコンピュータに移る。光学素子の開発でアナログ・カメラとフィルムメーカーが淘汰され、家電メーカーがデジタルカメラに参入したのと同じ現象が起きる。インスタントカメラとフィルムで一時代を築いたポラロイド社が先頃ついに破産したが、「破壊的技術」の「破壊力」の大きさを物語るできごとだ。
 かつてガソリン・エンジンは「破壊的技術」であった。それまでの馬による交通体系を根底から覆し、大量生産、大量消費の工業文明時代を築き上げた。その陰でそれまで馬具や馬車を家内工業で生産していた数多くの職人たちが失業していった。現在起きている現象は百年に一度の大不況というよりも、丁度百年前に起きた農業時代から工業時代への時代の転換と同様の百年どころか千年に一度の時代の転換である。
 いま経済や政治の指導者たちに求められるのは、大不況ではなく工業時代から情報時代への産業構造の大転換点という時代認識である。この時代の波に乗り遅れれば、国家の衰退は避けられない。

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